うつ病になると、気分が落ち込むだけでなく、睡眠や食欲、仕事、人との関わりなど、日常生活のさまざまな場面に影響が及ぶことがあります。
うつ病の治療では、医師の判断のもとで行う薬物療法や精神療法などが一般的ですが、近年は運動も、うつ症状を改善するための選択肢の一つとして注目されています。
では、どのような運動がうつ病に効果的なのでしょうか。
イギリスの医学誌「BMJ」に2024年に掲載された大規模な研究では、ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニングなど、さまざまな運動とうつ病との関係が調べられました。
この記事では、この研究結果をもとに、うつ病と運動の関係、取り入れやすい運動の種類、年齢や性別による違い、運動を続ける際のポイントについて解説します。
BMJに掲載された大規模な研究とは?
今回紹介するのは、2024年に「BMJ」に掲載された、運動とうつ病に関するシステマティックレビューとネットワークメタ解析です。
研究では、うつ病の基準を満たした人を対象とする218件の研究、合計14,170人のデータが分析されました。
単独の研究ではなく、数多くの研究結果をまとめて比較しているため、「どのような運動がうつ症状の軽減と関連しているのか」を幅広く検討した研究といえます。
その結果、特に注目されたのが、
- ウォーキング・ジョギング
- ヨガ
- 筋力トレーニング
- 有酸素運動
などでした。
研究では、これらの運動を行ったグループで、通常のケアなどの比較対象と比べて、うつ症状が中程度改善する傾向が確認されています。
うつ病に運動が良いと考えられる理由
運動すると、体を動かすことによる身体的な変化だけでなく、気分やストレスなどにも影響が生じます。
たとえば、外に出て歩くことで生活リズムが変化したり、人と接する機会が増えたりすることがあります。
また、運動によって「少し歩けた」「以前より体を動かせるようになった」と感じることが、自己効力感につながる可能性もあります。
さらに、ヨガなどでは呼吸や身体感覚に意識を向けることから、一般的な有酸素運動とは異なる心理的な側面も考えられます。
ただし、「運動によってセロトニンやドーパミンが増えるから、うつ病が改善する」と単純に説明できるわけではありません。
うつ病と運動の関係には、身体活動そのものだけでなく、睡眠、ストレス、社会的なつながり、自己評価など、複数の要因が関係している可能性があります。
うつ病にはどんな運動がよい?
今回のBMJの研究では、さまざまな運動が比較されました。
1.ウォーキング・ジョギング
特に注目された運動の一つが、ウォーキングやジョギングです。
特別な器具を必要とせず、自分の体力に合わせて始めやすいのが大きなメリットです。
たとえば、
「今日は10分だけ歩いてみる」
「近所を一周してみる」
といった小さなところから始めることもできます。
研究では、ウォーキング・ジョギングはうつ症状の軽減と関連し、今回比較された運動の中でも比較的大きな効果が示されました。
2.ヨガ
ヨガも、うつ症状の軽減と関連する運動の一つでした。
ヨガでは、身体を動かすだけでなく、呼吸や身体の感覚に意識を向けることがあります。
また、研究ではヨガは筋力トレーニングとともに、参加者が継続しやすい運動として評価されています。
激しい運動が難しい場合でも、体力や状態に合わせて無理のない方法を検討できる点も特徴です。
3.筋力トレーニング
筋力トレーニングも、うつ症状の軽減と関連していました。
筋トレというと、ジムで重い重量を持ち上げるイメージがありますが、必ずしもそうとは限りません。
スクワットや軽い負荷を使った運動など、体力に合わせた方法があります。
今回の研究では、筋力トレーニングは特に若い人で効果が大きい傾向がみられ、女性では男性より効果が大きい傾向も報告されています。
ただし、こうした年齢・性別による違いについては、研究結果の確実性が十分高いとはいえないため、あくまで一つの傾向として捉えることが大切です。
4.有酸素運動
ウォーキングやジョギングのほか、さまざまな有酸素運動を組み合わせた方法も、うつ症状の軽減と関連していました。
サイクリング、水泳、エアロビクスなど、自分が取り組みやすい運動を選ぶことができます。
「どの運動が一番優れているか」だけでなく、自分が無理なく続けられる運動を見つけることも重要です。
年齢や性別によって効果は違う?
今回の研究では、運動の種類によって、年齢や性別による違いがみられました。
研究結果では、ウォーキングやジョギングは男女ともに効果がみられた一方、筋力トレーニングは女性で、ヨガや気功は男性で比較的大きな効果が示されました。
また、ヨガは高齢者で、筋力トレーニングは若い人で、より大きな効果がみられる傾向がありました。
ただし、これは「女性は筋トレ、男性はヨガをすべき」という意味ではありません。
研究結果には不確実性が残っているため、年齢や性別だけで運動の種類を決めるのではなく、本人の体力や好み、生活環境などを考慮することが大切です。
運動はどのくらい行えばいい?
「運動が良い」と聞くと、「毎日長時間運動しなければいけない」と考えてしまうかもしれません。
しかし、体調がすぐれないときに無理をする必要はありません。
特にうつ状態では、着替える、外に出る、歩くといったこと自体が大きな負担になる場合があります。
そのため、
- まずは短時間の散歩から始める
- エレベーターではなく階段を使う
- 家の中で軽く体を動かす
- 天気の良い日に近所を歩く
- 無理のない範囲でストレッチをする
など、できることから始める方法があります。
重要なのは、運動できない日があっても自分を責めないことです。
「毎日必ず運動する」という目標よりも、自分の体調に合わせて継続できる方法を探すことが現実的でしょう。
運動は薬や精神療法の代わりになる?
ここは非常に重要なポイントです。
今回の研究では、運動単独でもうつ症状の改善がみられたほか、抗うつ薬や精神療法などと運動を組み合わせた場合にも効果が確認されています。
そのため、運動は「薬の代わり」と単純に考えるのではなく、医療機関で受けている治療を補う方法の一つとして考えるのが適切です。
服用している薬を自己判断で中止したり、治療を運動だけに変更したりすることは避けましょう。
治療中の方は、運動を始めることについて主治医に相談することも大切です。
運動を始めるときに大切なこと
うつ病では、何をするにも億劫に感じることがあります。
そのため、「毎日30分走ろう」といった高い目標から始めると、かえって負担になることがあります。
最初は、
「5~10分だけ歩く」
というくらいの小さな目標でも構いません。
慣れてきたら少しずつ時間や頻度を増やしていけばよいでしょう。
また、運動中に強い疲労や痛み、息苦しさなどがある場合は無理をせず、休むことが大切です。
持病がある方や体力に不安がある方は、運動を始める前に医療専門家へ相談しましょう。
まとめ|無理なく続けられる運動を生活に取り入れよう
BMJに掲載された大規模な研究では、ウォーキング・ジョギング、ヨガ、筋力トレーニング、有酸素運動などが、うつ症状の軽減と関連することが示されました。
特にウォーキング・ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングは、今回の研究で比較的大きな効果が示された運動です。
一方で、この研究に含まれた多くの研究ではバイアスのリスクがあり、研究結果の確実性は低い、または非常に低いと評価されています。そのため、「運動すればうつ病が治る」と断定するのではなく、治療を支える一つの選択肢として運動を考えることが大切です。
運動は、特別な器具がなくても始められるものがあります。
まずは無理をせず、自分の体調に合わせて、短い散歩や軽いストレッチなどから始めてみるのもよいでしょう。
そして、うつ症状が強い場合や日常生活に大きな支障がある場合は、運動だけで対処しようとせず、医療機関に相談することが大切です。
「できる範囲で少し体を動かす」ことから始める。
それが、日々の生活に運動を取り入れる第一歩になるかもしれません。
参考文献
Noetel M, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847.
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