「腸内細菌が作る毒素が、大腸がんと関係している」
そんな研究結果が注目されています。
これまで大腸がんというと、食生活や運動不足、飲酒、喫煙、加齢など、さまざまな要因が関係すると考えられてきました。
ところが近年、腸内細菌と大腸がんの関係について研究が進み、特定の細菌が作る「コリバクチン」という物質が、がん細胞の遺伝子変異と関連することが分かってきました。
今回は、最近報告された日本人の大腸がん研究をもとに、
- コリバクチンとは何なのか
- なぜ大腸がんとの関係が注目されているのか
- 若い世代の大腸がんとどのような関係があるのか
- 腸内細菌について私たちは何を考えればよいのか
を分かりやすく解説します。
腸内細菌が作る「コリバクチン」とは?
私たちの腸内には、非常に多くの細菌が存在しています。
腸内細菌は、食べ物の消化や代謝などに関わる重要な存在です。
しかし、腸内細菌にはさまざまな種類があり、すべてが同じ働きをするわけではありません。
その中には、「コリバクチン」という物質を作る能力を持つ細菌が存在します。
コリバクチンは、細胞のDNAにダメージを与える作用が知られている物質です。
DNAに傷がつくことによって、細胞の遺伝情報に変化が生じる可能性があります。
これまでの研究でも、コリバクチンを作る細菌と大腸がんとの関係が研究されてきました。
大腸がんの細胞に「コリバクチンによる変化」の痕跡
今回注目された研究では、日本人の大腸がん患者を対象として、がん細胞のゲノムを詳しく解析しました。
ゲノムとは、簡単にいうと細胞が持っている遺伝情報全体のことです。
がん細胞には、がんが発生・進展する過程でさまざまな遺伝子変化が蓄積します。
その変化には、原因となったものによって特徴的なパターンが現れる場合があります。
今回の研究では、そのパターンを調べることで、コリバクチンへの曝露と関連すると考えられる遺伝子変化がどの程度存在するのかを調べました。
研究では、日本人の大腸がん患者200人の腫瘍について全ゲノム解析などを行い、過剰変異型を除いた183人のうち82人、つまり44.8%でコリバクチンに関連する変異シグネチャーが確認されました。
つまり、今回の研究対象では、およそ半数に近い大腸がんで、コリバクチンとの関連を示す遺伝子変化が確認されたことになります。
ただし、これは「日本人の大腸がんの44.8%が腸内細菌によって発症する」という意味ではありません。
研究で確認されたのは、あくまでコリバクチンへの曝露と関連すると考えられる遺伝子変化の痕跡です。
ここは非常に重要なポイントです。
40歳未満の大腸がんで特に注目された理由
今回の研究が注目されている理由の一つが、若い世代との関係です。
研究では、コリバクチンに関連する変異が、若い年齢で発症した大腸がんでより多く確認される傾向が示されています。
また、研究発表では、出生年代による違いも報告されています。
特に1960年代以降に生まれた人で、コリバクチン関連の変異シグネチャーが多い傾向が確認されました。
このことから、
「なぜ若い世代の大腸がんが増えているのか?」
という問題を考えるうえで、腸内細菌とその産生物質が重要な研究テーマの一つになっています。
ただし、コリバクチンだけで若年発症大腸がんの増加を説明できると決まったわけではありません。
大腸がんには、遺伝的要因、食生活、生活習慣、腸内環境など、さまざまな要因が関係していると考えられています。
「毒素を作る大腸菌」がすべて悪いわけではない
ここで誤解してはいけないのが、「大腸菌=悪い菌」ということではありません。
大腸菌にもさまざまな種類があります。
今回注目されているのは、コリバクチンを作る能力を持つ一部の細菌です。
つまり、
「大腸菌がいるから危険」
という単純な話ではありません。
腸内細菌には多種多様な菌が存在しており、それぞれが異なる性質を持っています。
そのため、腸内細菌について考えるときは、「善玉菌」「悪玉菌」と単純に分けるだけではなく、菌の種類や働き、腸内細菌全体のバランスなどを総合的に考えることが重要です。
コリバクチンがどのように大腸がんと関係するの?
研究で注目されている大きなポイントが、DNAへの影響です。
コリバクチンはDNAに損傷を与えることが知られています。
DNAに繰り返し異常が生じると、細胞の性質が変化し、がん化につながる可能性があります。
研究では、コリバクチンへの曝露によって生じたと考えられる特徴的な遺伝子変化が、がんに関係する遺伝子にも確認されています。
そのため、
腸内細菌
↓
コリバクチンなどの物質
↓
DNAへのダメージ
↓
特徴的な遺伝子変化
↓
大腸がんとの関連
という仕組みが研究されています。
ただし、これは現在研究が進められているメカニズムであり、すべての大腸がんがこの経路で発生するわけではありません。
腸内環境を整えれば大腸がんを防げる?
今回の研究を見て、
「腸内環境を改善すれば、大腸がんを予防できるのでは?」
と考える人もいるかもしれません。
しかし、現時点では、特定の食品や健康食品を摂取したり、特定の腸内細菌を増やしたりすることで、大腸がんを確実に予防できると判断することはできません。
腸内細菌と大腸がんの関係は研究が進んでいる段階です。
今後、コリバクチンを作る細菌がどのように腸内に定着するのか、どのような環境で増えるのか、また、どのような方法でその働きを抑えられる可能性があるのかなどが明らかになれば、新しい予防方法につながる可能性があります。
研究発表でも、コリバクチン関連の細菌の定着を抑えたり、コリバクチンの産生を抑えたりすることが、将来的な予防戦略につながる可能性が示されています。
大切なのは「腸内細菌」だけに注目しすぎないこと
腸内細菌の研究が進んでいるからといって、大腸がん対策が「腸内環境」だけで十分というわけではありません。
大腸がんにはさまざまなリスク要因が関係しています。
そのため、日常生活では、
- バランスのよい食事を心がける
- 野菜や食物繊維を含む食品を取り入れる
- 適度に身体を動かす
- 飲酒や喫煙などの習慣を見直す
- 体重の急激な増減を避ける
- 定期的な健康診断を受ける
- 必要な年齢になったら大腸がん検診を受ける
といった基本的な健康管理を大切にすることが重要です。
特に大切なのが、「症状がないから大丈夫」と考えないことです。
大腸がんは早期には自覚症状がないこともあります。
便通の変化、血便、腹部の不調など、気になる症状が続く場合には、自己判断で様子を見続けず、医療機関に相談することが大切です。
腸内細菌研究はこれからどう進む?
今回の研究から見えてきたのは、大腸がんを考えるときに「人間の細胞」だけではなく、腸内に存在する微生物にも目を向ける必要があるということです。
今回の研究では、腸内細菌の情報と大腸がん細胞のゲノム情報を組み合わせて解析することで、腸内環境とがんとの関係をより詳しく調べています。研究では、腸内細菌の特徴から大腸がんを複数のタイプに分類する解析も行われました。
今後研究が進めば、
「どのような細菌が関係しているのか」
「いつ頃から影響を受ける可能性があるのか」
「なぜ若い世代で関連が強いのか」
「コリバクチンの作用を抑える方法はあるのか」
などについて、さらに詳しいことが分かってくる可能性があります。
腸内細菌と大腸がんの研究は、今後の予防医学を考えるうえでも注目したい分野の一つです。
まとめ|腸内細菌と大腸がんの研究に注目
今回の研究では、日本人の大腸がんを対象に、コリバクチンへの曝露と関連する特徴的な遺伝子変化が、過剰変異型を除いた解析対象の約45%で確認されました。
さらに、若い世代で関連する変異が多い傾向も報告されています。
ただし、
「コリバクチンが大腸がんの原因である」
と単純化することはできません。
大腸がんはさまざまな要因が複雑に関係して発症すると考えられています。
今回の研究は、腸内細菌と大腸がんの関係をさらに詳しく理解するための重要な研究の一つといえるでしょう。
今後、腸内細菌とがんの関係がさらに明らかになれば、新しい大腸がんの予防法や早期発見法につながる可能性があります。
腸内環境について正しく知り、日々の生活習慣や定期的な検診について考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
※本記事は研究報告を一般向けに分かりやすく解説したものであり、特定の食品・健康食品・成分による疾病の予防や治療を保証するものではありません。健康上の不安や症状がある場合は、医療機関にご相談ください。



