「腸内環境を整えるには善玉菌を増やせばいい」
そんなイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
確かに、腸内細菌には私たちの健康にとって好ましい働きをするものがあります。一方で、炎症を促したり、DNAに影響を与える物質を作ったりする可能性が研究されている細菌もあります。
しかし、腸内細菌を「善玉菌」と「悪玉菌」の2種類だけに分けて考えるのは、実際の腸内環境を理解するには少し単純すぎます。
近年は、腸内細菌の種類だけでなく、細菌同士の組み合わせや、細菌が作り出す物質、食事や生活習慣との関係などが注目されています。
特に大腸がんとの関係では、特定の細菌やその産生物質が研究対象になっています。
今回は、腸内細菌と大腸がんの関係を考えるうえで知っておきたい「善玉菌・悪玉菌だけでは判断できない理由」を解説します。
そもそも「善玉菌・悪玉菌」とは?
腸内細菌について説明するとき、「善玉菌」「悪玉菌」という言葉がよく使われます。
一般的には、
- 善玉菌:健康維持に役立つと考えられる菌
- 悪玉菌:健康に悪影響を及ぼす可能性がある菌
- 日和見菌:状況によって働きが変わるとされる菌
というように説明されることがあります。
この分類は、腸内細菌を理解する入り口としては分かりやすい方法です。
しかし、実際の腸内細菌はもっと複雑です。
同じ種類の細菌でも、腸内環境や食事などによって働きが変わる可能性があります。また、ある細菌が常に「良い」「悪い」と決められるわけでもありません。
現在の研究では、腸内細菌全体を「腸内微生物叢(腸内マイクロバイオーム)」として捉え、細菌の構成とその働きを総合的に見る考え方が重要になっています。
腸内細菌は「数」だけでなく「働き」が重要
腸内環境を考えるとき、
「善玉菌が何%いるか」
という数字だけを見ればよいわけではありません。
重要なのは、そこに存在する細菌が何を作り、腸の中でどのような働きをしているかです。
腸内細菌は、食事などから得られる成分を利用して、さまざまな物質を作ります。
その中には、腸の状態を維持するうえで役立つ可能性が研究されている物質もあれば、炎症やDNA損傷などとの関係が研究されている物質もあります。
つまり、
「どんな菌がいるか」+「その菌が何をしているか」
の両方を見る必要があります。
腸内細菌と大腸がんについてまとめた研究でも、特定の細菌や細菌が作る物質が、炎症やDNA損傷などを介して大腸がんと関係する可能性が研究されています。
大腸がんとの関係で注目される「コリバクチン」
最近、腸内細菌と大腸がんの関係で特に注目されているものの一つが「コリバクチン」です。
コリバクチンは、一部の大腸菌などが作ることがある物質です。
研究では、コリバクチンがDNAに影響を与え、特徴的な遺伝子変化を引き起こす可能性が調べられています。
つまり、
腸内細菌
↓
細菌が作る物質
↓
腸の細胞への影響
↓
遺伝子変化
↓
大腸がんとの関連
という流れが研究されているのです。
ここで大切なのは、「大腸菌がいる=大腸がんになる」という意味ではないことです。
大腸菌にもさまざまな種類があり、コリバクチンを作る性質を持つ一部の細菌が研究対象になっています。
そのため、「大腸菌は悪玉菌」と一括りにすることはできません。
「善玉菌を増やせば大丈夫」とは限らない理由
腸内環境について、
「善玉菌を増やす」
ことばかりを意識してしまう人もいるかもしれません。
しかし、腸内細菌と大腸がんの研究を見ると、単純に特定の菌を増やせばよいとは言い切れません。
腸内細菌は、お互いに影響しながら生活しています。
さらに、
- 食事内容
- 食物繊維の摂取量
- 運動習慣
- 体重
- 加齢
- 免疫機能
- 腸の状態
- 薬剤など
さまざまな要素が腸内細菌の構成や働きに影響します。
そのため、腸内環境を考えるときには、一つの菌だけに注目するのではなく、腸内細菌全体のバランスと、その働きを考えることが重要です。
腸内細菌と大腸がんには複数の経路が関係している
腸内細菌と大腸がんの研究では、特定の細菌だけでなく、複数の細菌や代謝物が関係している可能性が調べられています。
例えば、一部の細菌は炎症に関係する反応を促したり、細胞のDNAに影響する物質を作ったりする可能性があります。
一方で、腸内環境を維持することに関係する細菌や、腸内で短鎖脂肪酸などを作る細菌についても研究されています。
このように、
「悪い菌をなくす」だけではなく、「腸内全体の環境をどう保つか」
という視点が重要になっています。
近年のレビューでも、大腸がんと腸内細菌の関係について、特定の細菌だけではなく、腸内細菌全体のバランスや細菌が作る代謝物などが研究されています。
「腸内フローラのバランス」とは?
よく「腸内フローラのバランスを整える」という表現を耳にします。
これは、単純に「善玉菌を増やして悪玉菌を減らす」という意味だけではありません。
腸内には非常に多くの種類の微生物が存在しており、それぞれが互いに影響しながら一つの生態系を形成しています。
そのため、現在の研究では「どの菌が何%なら理想的」という単純な基準を設定することは難しいと考えられています。
また、腸内細菌の構成には個人差があります。
年齢や食事、生活環境などによっても変化するため、他人の腸内細菌と自分の腸内細菌を単純に比較することもできません。
腸内環境を意識するなら、まずは生活習慣から
では、腸内細菌を意識するために何をすればよいのでしょうか。
特別なことを一つだけ行うより、毎日の生活習慣を見直すことが基本になります。
1.バランスのよい食事を心がける
特定の食品だけを大量に食べるのではなく、さまざまな食品を組み合わせることが大切です。
野菜、果物、豆類、穀類などには食物繊維を含むものがあります。
国立がん研究センターでは、食物繊維の摂取は大腸がん予防に効果がある可能性があるとされています。
2.適度に身体を動かす
運動不足にならないよう、日常生活の中で身体を動かすことも大切です。
国立がん研究センターでは、身体活動が大腸がんの予防に効果的であることは「ほぼ確実」とされています。
激しい運動をする必要があるということではなく、無理のない範囲で身体を動かす習慣を作ることがポイントです。
3.喫煙や飲酒を見直す
大腸がんの発生には、喫煙や飲酒、肥満などの生活習慣も関係するとされています。
腸内細菌だけを意識するのではなく、こうした生活習慣も含めて健康管理を考えることが大切です。
4.「腸活食品」だけに頼りすぎない
ヨーグルトや発酵食品、食物繊維を含む食品など、腸内環境を意識した食品はいろいろあります。
しかし、
「この食品を食べれば大腸がんを予防できる」
と考えるのは適切ではありません。
特定の食品や成分だけで大腸がんを予防できるという十分な根拠が確立しているわけではありません。
腸内環境を考える場合も、基本はバランスのよい食生活です。
サプリメントや健康食品なら腸内環境を改善できる?
「腸内環境が気になるから、サプリメントを飲もう」と考える人もいるでしょう。
しかし、健康食品やサプリメントについても、飲めば大腸がんを予防できると考えるのは避けたほうがよいでしょう。
腸内細菌の研究は急速に進んでいますが、特定の食品やサプリメントによって大腸がんを確実に予防できるという段階には至っていません。
例えば、プレバイオティクスとして知られるイヌリンについても、大腸がん予防効果については臨床試験で十分な根拠が確立していないとするレビューがあります。
「腸内環境に良さそう」というイメージだけで商品を選ぶのではなく、成分の特徴や科学的根拠を確認することが大切です。
腸内細菌を気にするより「検診」を忘れない
腸内環境を意識することは大切ですが、それ以上に忘れてはいけないのが大腸がん検診です。
国立がん研究センターでは、40歳以上の人を対象に、1年に1回の大腸がん検診が推奨されています。
一般的な検診では、2日分の便を使った便潜血検査が行われます。
大腸がんは早期には症状がないこともあります。
そのため、
「便通に問題がないから大丈夫」
「腸活をしているから大丈夫」
と自己判断するのではなく、対象年齢になったら定期的に検診を受けることが重要です。
また、血便、腹痛、便の形や回数の変化などが続く場合は、検診を待たずに医療機関へ相談することが勧められています。
これからは「菌の名前」より「腸内環境全体」に注目
これから腸内細菌の研究がさらに進めば、
「どんな菌がいるのか」
だけでなく、
「どんな物質を作っているのか」
「腸の細胞にどのような影響を与えているのか」
「食事や生活習慣によってどう変化するのか」
といったことが、さらに詳しく分かってくる可能性があります。
実際、近年の研究では、腸内細菌を利用した大腸がんの予防や治療への応用についても研究が進められています。
一方で、腸内細菌を利用した検査や治療には、まだ研究上の課題も多く、一般的な医療として確立していないものもあります。
まとめ|「善玉菌を増やす」だけではなく腸内環境全体を見る
腸内細菌について考えるとき、「善玉菌」と「悪玉菌」という分類は分かりやすい一方で、それだけでは腸内環境の複雑さを十分に説明できません。
特に大腸がんとの関係では、
- 特定の細菌の存在
- 細菌が作り出す物質
- 腸の炎症
- DNAへの影響
- 食事や生活習慣
- 腸内細菌全体のバランス
など、さまざまな要素が関係していると考えられています。
最近では、コリバクチンのように、一部の腸内細菌が作る物質と大腸がんとの関係も注目されています。
だからこそ、「善玉菌を増やせば大丈夫」と単純に考えるのではなく、腸内環境全体を意識することが大切です。
そして、腸内環境を意識した食生活や運動習慣とともに、40歳以上では定期的な大腸がん検診を受けることも忘れないようにしましょう。
腸内細菌の研究は現在も進行中です。
今後、腸内細菌と大腸がんの関係がさらに明らかになれば、新しい予防法や早期発見につながる可能性も期待されています。
※本記事は、腸内細菌と大腸がんに関する研究・公的情報を一般向けに解説したものです。特定の食品、健康食品、サプリメントなどによる疾病の予防や治療を保証するものではありません。
「腸内細菌と大腸がんの関係とは?コリバクチンと若年発症を研究から解説」



