自然の肛門と違って、人工肛門には肛門括約筋(こうもんかつやくきん)(肛門を開閉する筋肉)がありませんから、自分の意思で排便をがまんしたり、便を出したりすることができません。
したがって、不随意な排便にわずらわされることなく日常生活を快適に送るためには、人工肛門の管理方法を十分に取得しなければなりません。
●装具
不随意にでてくる排せつ物をためておくための装具が人工肛門の外側につけられます。
装具は、装具を腹部にはりつける部分「面板(めんいた)、フランジ」と、排せつ物を収納する「ストーマ袋、パウチ」からできています。
装具が皮膚に接する部分には、皮膚保護剤が使われ、材質や形状などがさまざまに工夫されたものが市販されています。
<装具は2種類>
・面板とストーマ袋が一体になった「単品系装具(ワンピース)」
・別々にわかれた「二品系装具(ツーピース)」
単品系は取り扱いがかんたんで、二品系は面板をはったままで袋の向きを自由に変えられるという特徴があります。
それぞれサイズや形状など種類があり、のメリット、デメリットがあるので、相談して自分の体型や用途にあったものを選びましょう。
装具は使い捨てですが、正しく装着すれば、数日使うことも可能です。
防臭・防水効果がすぐれているので、液体やにおいが漏れてくることはありません。
ストーマ袋に排せつ物がたまったら、トイレに流して、ストーマ袋は洗って、紙などにつつみ、ごみ袋に入れて、自治体が指定する方法で廃棄します。
交換する場合は、食後を避けましょう。腸の動きがよくなることで交換中に便が出てしまうことがあります。
夏は汗をかきやすく、粘着剤や皮膚保護剤で肌トラブルが起こる場合があるので、早めの交換がおすすめです。
●スキンケア
ストーマ(人工肛門)装具は肌に直接はるため、周囲の皮膚は、便や便中の細菌、また装着具そのものの刺激を受けて、かぶれたり湿疹ができたり、皮膚炎などの皮膚トラブルがおこりやすくなります。
とりわけ回腸人工肛門は、排便される便が液状で消化酵素がふくまれているため、皮膚につくと、ひどいただれをおこします。
ひとたび皮膚トラブルをおこしてしまうと、装具の装着がむずかしくなったり、生活の質(QOL)も低下したいへんなため、皮膚の清潔を保つなど、予防的なスキンケアをおこなうことが重要です。
汗や排泄物の付着、周囲の皮膚の衛生状態の悪さ、装具交換をするときに無理にはがしてしまうなどに注意してスキンケアを行いましょう。
皮膚を清潔に保つために、よく洗いましょう。
<洗浄のコツ>
せっけんを使う場合は、よく泡立てることです。
せっけんの泡が、汚れを浮かして包み込んで流します。
洗いすぎると皮膚トラブルを起こしやすくなるので、自分の肌の状態を見て対処することが大切です。
●排便法
ストーマによる排便の方法には2とおりあります。「自然排便法」と「洗腸排便法」です。
・自然排便法
自然排便法は、腸管から自然に排泄される便をストーマ袋にためるもので、基本的な排便法です。
体力がない場合でも、自分の意志とは関係なく排出できるというメリットがありますが、ときどきチェックをして、トイレに排出する必要があります。
・洗腸排便法
結腸人工肛門で行われる排便調整法のことです。
洗腸用キット(洗腸液袋、チューブ、スタンドなど)や、洗腸用装具などの専門の器具が必要となります。
その器具を使い、ストーマからぬるま湯を注入して、腸を刺激して強制的に排便させます。いわば浣腸の一種です。定期的に行うことで不随意な排便から開放されます。
1回洗腸すると、1〜2日は排便をせずに済みます。自分の都合にあわせて排便のタイミングを調整できますが、1回の洗腸には、約1時間ほど座った状態で行いますので、体力と時間が必要となります。
人工肛門の種類によってはできない場合もありますので相談してから実施します。
●人工肛門のトラブル
よくみられるトラブルには、
・人工肛門が細く狭くなって便が出にくくなる(狭窄きょうさく)、
・腸が筒状に飛びだす(腸脱出)、
・人工肛門の周囲が膨らむ(傍ストーマヘルニア)、
・人工肛門からの出血
などがあります。
また、皮膚のしわがじゃまでうまく装置が装着できないとか、人工肛門の位置が悪くて管理しにくいというトラブルもあります。
日常生活を快適にするポイント
◆食事
暴飲暴食はさけて、消化のよいものをバランスよく食べましょう。
ガスやにおいには、ヨーグルトや乳酸菌飲料がおすすめです。
◆お風呂
ストーマ器具をきちんと装着して、排出口が閉じていれば、そのまま入浴することができます。
入浴中にストーマから便が出るのが心配だったり、温泉施設などで人目が気になるという場合は、入浴用キャップやミニパウチを利用しましょう。
◆運動
基本的に、身体を動かすことには制限はありません。
お腹がぶつかったり負担がかかると、ストーマの損傷を起こすことも考えられますので、そのような運動は避けましょう。
おすすめできない運動は、腹筋や腹ばいの姿勢の運動、柔道や鉄棒などです。
◆装具
状況に応じたストーマ装具を選ぶことがおすすめです。
たとえば、薄着になる夏場は、厚みがない単品系を選び、旅行やスポーツをする場合は、ストーマ袋を交換できる二品系を選ぶなど、状況に応じて使いわけるのも良いでしょう。
◆外出や旅行
外出先や旅行先でトイレのことが気になってしまっては楽しむことができませんよね。
そんなときには、トイレの場所を確認しておいたり、もしものときのために、替えの下着を用意したり、下着にパッドをあてておくと安心できます。
予備のストーマ装具一式を準備しましょう。
<海外旅行で注意したいこと>
●旅行先の衛生状態によっては、洗浄用のミネラルウォーターが必要になることもあるので用意しておくと安心です。
●機内では気圧の変化によって袋がふくらむことがあります。飛行機に乗る前にトイレで便をすて、余分な空気を抜いておきましょう。
●飛行機にはハサミやカッターは無断では持ち込めません。ストーマの面板をカットするために、あらかじめ持ち込みを申告するか、面板の穴を事前にカットしておきましょう
●機内で、できるだけトイレに近い座席にしてもらうには、身体障碍者手帳を提示するか、人工肛門であることを説明しましょう。優先的にトイレに近い席にしてもらえます。
◆オストメイト対応トイレ
人工肛門や人工膀胱などのストーマに対応した設備のトイレがあります。
全国のオストメイト(人工肛門・人工膀胱)対応トイレがどこにあるかという情報を調べることができるサイトがあります。
心配な方は事前に、外出先や旅行先のどこにあるのかを調べておくと、外出時にあせらず安心して利用することができます。
オストメイト対応トイレ目印(マーク)
オストメイトトイレを探せるサイトです
・オストメイトJP
https://www.ostomate.jp/
(利用者の善意の投稿によるトイレ情報が掲載されています。)
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